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笈ヶ岳
笈ヶ岳

基本情報
1 山名 笈ヶ岳(おいづるがたけ)
標高 1,841m (三等三角点)
山域 加越山地
都道府県 富山・石川
位置 N36.17.54/ E136.47.32 
地図 昭文社 山と高原地図43「白山・荒島岳」
2万5千分の1地図「中宮温泉」
20万分の1地勢図「金沢」
7 山岳区分 日本二百名山
登山記録
山歩No 2780-14020
登山日 2014年5月18日(日)
歩程 10時間30分
天候 快晴
形態 日帰り
アプローチ JR北陸本線福井駅よりレンタカー中宮温泉
パーティー 1人

 日本二百名山最難関といわれる山の一つがこの笈ヶ岳である。 なにしろ夏道が存在しない。 登頂するためには4月中旬から5月中旬までの残雪期を狙うしかない。 したがってアイゼン歩行を含めた雪上歩行技術がいる。 おまけに、日帰りで行くのがかなり厳しい長距離となる。 日帰りコースとなるジライ谷ルートはほぼ垂直に谷筋を詰めて、両手両足を使って登る急登となる。果たして自分にそんなコースを登ることは可能なのだろうか?

早朝中宮温泉出発

 5月17日土曜は新幹線で米原まで来て、そこから特急しらさぎで福井に入った。 レンタカーを借りて、まず足慣らしに経ヶ岳を登る。 日曜日の笈ヶ岳は日帰りで狙うことにするが、とにかく土曜日の晩までに中宮温泉に入って翌朝早く出発すればいい。 中宮温泉自然観察センターの駐車場はなぜか他に車は一台も停まっていなかった。 ゴールデンウイークのさなかにはバスを仕立ててきたグループも含めて90人が登った山である。 大丈夫だろうか? 朝3:00起床。 4:15ヘッドランプをつけて駐車場の裏から歩き始める。今日もまた単独行動である。

野猿公園

 自然観察路を沢に沿って進むと、尾根をくりぬいたトンネルがある。 暗いトンネルを抜けるとそろそろ朝の白々とした空が見えた。 この時期の金沢地方の日の出は4:45頃らしい。 遊歩道は途中で通行止めの標識があったが、インターネットの情報でみたとおり、その標識を無視してさらに進む。雪よけのシェルターをくぐっていくと野猿公園だ。 本当にサルがいるのだろうか?

ジライ谷----ほぼ垂直の登り

 野猿公園を過ぎて渡渉をするといよいよジライ谷の急登が待っている。いきなり、長さ20mほどのトラロープにつかまりながら、がれ場を上がっていく。 さらにその先も木の根に足をかけながら両手で根をつかんで登っていくような厳しいところだ。とりあえず、中間点である冬瓜山が1620mの標高なので、そこまで中宮温泉から990mである。 これを3時間かけて登る計画とした。 5:10標高820mの岩場で休憩。今日は長丁場なのであまり先を急がぬようにする。 日の出したのか上のほうに太陽が当たってきているようだ。 備えとして日焼け止めを塗って5:15出発。 

大岩

 ルートは相変わらずの直登であるが、固定ロープがつけられており思ったほど難度は高くない。 荷物があると相当きついだろうが、今日は前回の猿ヶ馬場山での重量によるばてに懲りて、相当軽量化を図った。 というかザックが小型25LなのでEPIのコンロさえ入れていくことができなかったというのが本音である。 歩き出して1時間を超えて、いわゆる大岩が現れた。 ジライ谷の名物の難所である。 岩自体をよじ登る必要はなくその横を登っていく。 6:07標高1190mのブナの大木の下で休憩。ルートははっきりしており安心である。6:17出発。 やがて急な登りは終わり、稜線に出たような傾斜になった。 このあたりから少しずつ残雪が現れる。 残雪にあたると、踏みあとが消えてしまっているのだが、木々の間に赤いテープが巻いてあるので忠実にそれをたどっていけばよい。 

藪漕ぎ

 1250m付近でいったんピークを越えたがここからが少し大変だった。 稜線に雪がついていないので、かなり強引に倒れた藪を踏みつけるように進んでいく。 GWごろの登山者はまだ雪があった頃だろうから今よりの楽に通行できたのではないだろうか?、結構な藪を漕ぎながら進んでいるときに、リュックに括り付けていた500mペットボトルのお茶を気づかない間に落としてしまったようである。 まあほとんど飲み切っていたし、その他に2Lの水を持っていたので水不足で撤退という大事には至らなかった。

冬瓜山ナイフリッジ

 冬瓜山のピークと思われるところが見えた後が長かった。 藪を漕ぎながら残雪を拾うようにして登る。 結構な時間がかかってしまう。7:09に標高1420mの地点で休憩。 7:15に出発。 結局苦労して冬瓜山に到着したのはそれから1時間歩いた8:09だった。なんのかんの言って出発してから4時間弱をここまでで費やしてしまっている。冬瓜山のピークはナイフリッジになっており、なるほど、注意して渡らなければいけない。 無理して上を歩いて渡るよりは上の部分に手をおいて中腹を歩いたほうがいいかもしれないと思いそのようにして通過。 荷物が軽いので助かった。 ナイフリッジを渡ると三角点があった。そこで、ビスケットとイチジクのドライフルーツを食べて腹ごしらえ。はるか先に笈ヶ岳の山頂が見える。笈ヶ岳の山頂まで標高差はあと200mほどであるが、他の人の記録を見るとたっぷり2時間ほどかかっている。  

シリタカ山の登路

 冬瓜山を出てからは雪のびったりついた斜面であった。 山スキーで滑りおりたいような短い斜面を下り、そこからシリタカ山へののぼりが始まる。ここで、アイゼンをつける。 シリタカ山の西面はびったりと雪がついており、アイゼンを効かせながら快調に登ることができた。9:00シリタカ山到着。 三角点があるはずだが雪の中に埋もれているようでどこにあるか発見できなかった。 ルートはここから北東方向に向きを変える。 一気に北面を標高100mほど落とすのだが結構急傾斜で慎重に降りて行った。 当初4本爪の簡易アイゼンにしようかと思ったが、12本爪のものを持ってきてよかったと思った。 

稜線へ---アイゼンを落とす事故

 9:12、シリタカ山から北に進むところで雪が途切れてしまう。 仕方ないので、東側の富山県側に回り込んでいこうとしたらかなり急傾斜の崖の上を通らなければならなかった。 雪がついていた斜面なので草が滑りやすくなっており、危うく崖から落ちそうになる。 あわてて木に捕まったのでよかったがこれはまずいと考えて、今度は稜線の西の石川県側に入ったがひどい藪漕ぎとなった。 アイゼンを外してリュックに括り付けて藪漕ぎをしているとアイゼンを片方落としてしまっているのに気付いた。 慌てて後ろを見るが藪の中から黒いアイゼンを探すのは容易ではない。 落ちつけと自分に言い聞かせつつ、通ってきた藪を苦労しつつ戻る。 2度シリタカ山の稜線まで登り返して藪の入り口近くで落としたアイゼンを回収する。 約8分のタイムロスである。

笈ヶ岳山頂

 さらに進むと再び雪原が現れたので先行者のふみあとを探して追従する。 瓢箪山から仙人窟山を越えていく縦走路との合流点がかなり急傾斜になっており最後再び雪原が途切れて藪になってしまった。 ゴールデンウイークのころにはここにも雪原があったのだろう。 山頂まであと標高100mほどなのであるがここでまた相当に藪漕ぎに時間を費やしてしまう。どうしてもこのやぶが抜けられなかったら、山頂目前にして撤退しなければならない。 標高差20mほどを30分もかかってやっと藪を抜け出すことができた。稜線を登り、最後に砂の崩れやすい草付を超えると、そこが笈ヶ岳の山頂だった。 

白山の眺め

 10:55、苦労して6時間半の時間を費やしてついに笈ヶ岳の山頂に立つことができた。 山頂は決して広くはないが、360度の展望で、白山の間名古の頭や大汝峰が手に取るように見えた。 なんといっても、三方岩山・野谷庄司山などかた白山につながる稜線が白銀の峰でつながって目の前に見えるのが嬉しかった。 北に目を転じると大笠山がすぐ近くに見えた。 山頂標識の横にはなぜかコッフェルが置いてあった。快晴無風の中、誰ひとり登山者に出会うことのなかった山の上でたった一人で景色を堪能した。

クマの足跡

 名残は尽きないが、計画をずいぶんオーバーしているので、即席やきそばを駆け込むと30分ほどで下山を始めた。 11:25出発。 17時までに下山しなければ19時にレンタカーを返却して本日中に帰る新幹線に乗れなくなってしまう。 先ほど登りで20分ほど費やした藪漕ぎは自分が通ったふみあとがわかるので、下りは5分ほどで通過することができた。 シリタカ山の登りで登山者の足跡をたどって登っていたのだが、いつの間にかふみあとが、登山者のものと、4つ足の動物のものとが混じるようになってきた。 結構新しいものだ。 もちろんシカではない。 恐ろしくなってウエストポーチにぶら下げている熊鈴を鳴らそうとしたら、なんと鈴がない。 藪漕ぎの時に引きちぎられてしまって、これもまた気づかぬ間に落としてしまったようだ。 クマに遭いませんようにと祈りつつ歩いた。 

下山---自然観察センター中宮館

 冬瓜平をトラバースするのが距離的に短いのだが雪面の状態がわからないのでもと来た冬瓜山を登り返すルートで戻る。 13:21冬瓜山到着。 ここからゆっくり藪ルートを下る。14:13、一瞬道がわかりにくくなり支尾根に迷い込みそうになったが、GPSで現在地を確認して正しいルートを降りる。 ここからは雪もないのでアイゼンをしまって歩いた。 ストックをうまく使ってバランスをとりながら、ジライ谷の急斜面も下っていく。 思ったよりも快調に高度を下げていくことができた。 16:47下山。福井でレンタカーを返して、立ち食いソバを晩飯にして米原経由で新幹線で帰った。 


 念願だった笈ヶ岳に何とか登ることができた。 行動時間12時間超は2012年の6月の朝日岳以来かもしれない。過去には何度かあるがさすがに5月ー7月の日の長い時期でないとできないであろう。 笈ヶ岳にテントを担いでいくか日帰りでいくかは最後まで悩んだが、日帰りで行くことができてよかった。 天気に恵まれ山頂からの展望は素晴らしかった。早朝登り始めてから下山まで一人も他の登山者に遭わなかったのも珍しい経験だった。  
(2014年5月 記)

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地図の引用画像は国土地理院発行の数値地図50000(地図画像)と数値地図50mメッシュ(標高)を利用しています。(この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。承認番号  平13総使、第301号)
登山ルートの俯瞰図は、DAN杉本氏の開発したソフトウエア「カシミール3D」にて作成しています