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佐幌岳
佐幌岳

基本情報
1 山名 佐幌岳(さほろだけ)
標高 1,060m (一等三角点補点)
山域 日高山脈
都道府県 北海道
位置 N43.10.24/ E142.46.51 
地図 2万5千分の1地図「佐幌岳」
20万分の1地勢図「夕張」
7 山岳区分 ハイキング百選・北海道百名山
登山記録
山歩No 9600-13018
登山日 2013年5月5 日(日)
歩程 4時間30分
天候 晴れ後曇り
形態 日帰り
アプローチ 国道38号線狩勝峠より
パーティー 1人

2013年春の北海道遠征はあいにくと低気圧の影響で山は完全に冬の状態に戻り、雪や雨の悪天が続いて散々な結果となった。暑寒別岳→余市岳→オプタテシケ山と計画したが、途中敗退やアプローチの悪天などでそもそも登れないという事態で推移した。 5月5日、今日は最後に予定を変更して佐幌岳に登ろうと考えた。 

サホロリゾート

 5月5日(日)5:30サホロリゾートのスキー場の駐車場で目が覚める。 昨夜のうちにトムラウシ温泉を出発して忠別清水線を南へ新得町から国道38号に入ってここへ来た。天気予報では十勝地方の天気は午前中は降水確率10%、午後は40%である。 はたして天気は持ってくれるだろうか。朝食にカップうどんを食べてトイレを借りるために、サホロリゾートのホテルに寄った。 ここは、2007年にトムラウシに登山したあとやはり十勝岳に登るべく移動する際に宿泊した懐かしい場所である。

狩勝峠

  国道38号はよく整備された道である。 標高644mの狩勝峠まで3合目、7合目という表記が道路脇にある。 6:50に峠に到着。 国道38号線の南富良野町と新得町の町境にあり、昭和2年に「日本新八景」に認定された景色のよいところだ。 今回どうしてもこの峠には立ち寄りたいと思っていた。 それは、先日久しぶりに映画「幸福の黄色いハンカチ」(1977年、山田洋次監督)を見た。 その中で武田鉄也が演じる欽也が、高倉健演じる勇作に夕張に行って妻の気持ちを確かめろと励ますシーンの舞台が狩勝峠のレストハウスである。 驚いたことにレストハウスの「展望閣あくつ」は映画に出てきたものそのままであった。 また、トイレを使ったが、流れている音楽が「雪の降る街を」「黄色いシャツ」のなど昭和歌謡である。映画にあった1970年代から時が止まっててしまったような峠の景観であった。

佐幌岳登山口

 7:20準備をして峠を出発。 今回この山はあまり下調べをしていないので山スキーを楽しめるところなのかどうか不明だ。 とりあえずシールやアイゼンも持ってスキー板を担いで登ことにした。 レストハウスの裏手から坂があり、ここに佐幌岳登山口の標識がある。 ここからしっかりと雪がついている。 ちょっと急な坂を上がるとすぐに稜線伝いの気持ちのいい雪のルートになった。平たくなったところからは北東に東大雪の山山が見えた。 ピシカチナイ山やウペペサンケ山だろうか? 天気は幸い晴れている。 日焼け止めを顔に塗って進む。

軽快に踏みあとをたどる

  ルートの上には昨日のものと思われる先行者の踏みあとがある。 スノーシューで歩いているようだ。 東側に雪庇が出ているような箇所もあり、この方は慎重に西側の樹林の境界を外さぬように進んでいる。 雪面は結構しまっており、ツボ足で歩いてもあまり踏み抜いてしまうような場所はない。 積雪は1mくらいなのだろうか。 まだまったく地肌が出ているというところはない。 雪庇を回避するために熊笹の混じった雪原を進むという場面はあった。 

林道造成地

 8:06に広くなったところで休憩を取る。 ここには札が立っており、雪崩による崩壊防止対策としての林道造成地ということが書いてあった。 ルートはほぼ稜線につながっているのでわかりやすい。 佐幌岳は山の区分の上では日高山脈のカテゴリに入っている。 石狩と十勝を分ける分水嶺に位置しているからであろう。 空はすっかり晴れ渡っており、重いスキーを担いで歩いていても気持ちがよい。ラジオで聞くと今日はサッポロでも気温が10度くらいまで上がるようである。 もっとも10度ではまだ3月の気温であるが。

佐幌岳の全容が見える

  9:00、稜線のこぶを一つ越えると佐幌岳の姿が目に飛び込んできた。 大きな山の塊が左手と右手と双方にあるがどちらが佐幌岳だろうか? はっきりした地図を持っていないのでわからないが左手の山がきれいな形なので、勝手にこちらが佐幌岳であろうと決めつけて登りを頑張る。 (実は後でわかったが、こちらは前衛峰の桜山で、佐幌岳山頂にはさらに稜線を1時間進んだ右手の山であった。) そのとき、後ろから1人の登山者が近づいてくるのが見えた。 スノーシューを履いて豪快なスピードで近づいてくる。 今日は天気が悪くないので短時間で登れること山を選んだのであろう。 やはり北海道の登山者はたくましい。 

桜山への急な登り

  ここから登りは急な坂になってくる。 右手は雪庇になっているので踏み抜かないように臆病なくらい3m以上離れてルートをとる。 桜山への登りは右手が切れ落ちて滑落すると50mくらい下に落ちてしまいそうなところもある。 まあ、樹林につかまって登ればなんとかなるだろうと考えアイゼンは装着せずにそのままツボ足で登っていく。 雪がところどころザラメの弱層になっているので表層雪崩を起こさないか不安にはなった。 この2-3日の新雪がどの程度表面を覆っているかだ。 ただ、鞍部では新雪があって足が潜るという場面が何度かあったが、桜山の登りは雪がしまっており、その心配はないようだった。 

桜山のピーク

 9:58桜山の山頂到着。 標高950mの札がある。 狩勝峠から標高300mほど登ってきたわけだが思ったよりも時間がかかってしまった。 本当は正午までには下山できるだろうとたかをくくっていたがとてもそれは無理のようである。 なぜか、スノーシューの私を追い越して行った人の姿はもうまったく見えない。 ここから佐幌岳の山頂までの稜線は良く見えているがその上にも姿が見えない。 いったいどこへ行ってしまったのだろうか? 佐幌岳までの視界は悪くはないが、その先の十勝岳方面は上部に雪雲がかかっているのが見える。 西の夕張山地も雨雲はないが、逆に南側の日高山脈は雪が降っているようだ。 トマムのほうも雪雲に隠れている。 佐幌岳までまだ距離がありそうだったので進むかどうか迷ったが、折角ここまで来たのだから行けるところまで行ってみようと思い、水を飲んで、ゼリーを食べて出発。 

雪庇の張り出した鞍部

 10:08佐幌岳への稜線を下る。 桜山から佐幌岳までの稜線がもっとも雪庇が発達していて危険を感じた場所である。 途中、鞍部は雪が吹きだまりとなっているようで、一度腰まで入ってしまった。 登りの斜面は桜山と比べると緩やかである。しばらくすると、先ほどのスノーシューの登山者の方が佐幌岳の頂上からおりてこちらに向かってくるのが見えた。まさしく快速という言葉がぴったりくる。 すれ違うときに見たらだいたい私と同じくらいの年齢層の方だった。 自分ももう少しトレーニングをしてあのくらいには歩けるようになりたいものである。佐幌岳への最後の登りは疎になった樹林帯に少しジグザグを切りながら進んでいく。 

佐幌岳山頂

 11:08佐幌岳山頂到着。 標高1059.6m。 結構南北に長い山頂で、南の頂には雪でほとんど覆われてしまっているあずまやのような緑色の建物の頭が見えていた。 三角点のある本山頂まではほぼフラットな低木の間を抜けて3分ほど歩く。 北の頂に、佐幌岳の山頂標識があった。 休憩するのにちょうどいい岩があり荷物をおろして昼食にする。 昨日までの賞味期限のパンの残りと魚肉ソーセージそれときのうセブンイレブンで買った豆乳である。 少し風はあるが、アウターの下にセーターを着たらさほど寒さを感じなくなった。 手袋もここまで軍手ひとつだけで来たが大して濡れることもなかったのでちょうどいい。 今回4日の遠征の中で、晴れた空の下で山頂で食事をするというのは初めてである。

山頂より石狩岳・ニペソツ山

  恒例の360度展望動画を撮る。 というか、まともな展望動画は今回、この佐幌岳の山頂もものしかない。 樹林の間から見ると本来の目的であったオプタテシケ山が美瑛岳や十勝岳と寄り添うようにしているのが見えた。 下のほうは十勝側になるから降雪量がすくないのだろうか。 意外に白さが少ないように見えた。 正面のトムラウシ山は山頂部分が雪雲に隠れていて全景を見ることはできなかった。 北西に目を向けると石狩岳と2007年に登った二ペソツ山が真っ白な姿を見せていた。 一番東にあったのは手前は喜登牛山であろうが、その向こうは阿寒岳であろうか、そこまでの距離が見えるかどうか不明だったが方向的にはあっているはずだ。 新得町のある十勝平野はきれいに眼下に広がっている。 こちらは明らかに雪が少ない。 稜線の先には、佐幌スキー場のリフト終点のレストハウスのような建物が見えた。 狩勝峠からはこの山頂へは結構な距離だが、意外にスキー場からは近いのかもしれない。 

桜山までの下りの稜線

 三角点標識にタッチして11:55に出発。 山頂を後にして元来た道を狩勝峠まで進む。 佐幌岳から桜山までの下りはなかなか冬山の稜線歩きの雰囲気で気持ちのいいコースだった。日高の方はもう黒い雨雲のような雲に覆われ始めている。 天気予報の言う通り、このあと午後は雨が降るのであろう。 はやり8時間も9時間歩くオプタテシケ山アタックは今日は無理だったのだろう。下りの中腹で ちょうど1名後から来た登山者の方とすれ違う。 彼も単独行でスノーシューを履いていた。スノーシューは楽しそうである。桜山までの登りは狩勝峠からの登りに比べると傾斜が緩やかに感じられた。 13:00桜山に到着。 水を飲む。 ちょうどラジオでは西武ドームで行われる日本ハムファイターズ対西武ライオンズのプレイボールの中継が行われていた。 埼玉所沢の今日の気温は20度を超えていて半袖のお客さんも多いという放送だ。 北海道の気温とえらい違いだ。 

狩勝峠まで山スキー滑降

 桜山を過ぎてから2つほどこぶを越えなければいけない、最後のこぶを越えてからせっかくここまで担いだスキーを使わないのはもったいないと思い、スキー下山をした。 どうしても稜線の上で雪庇に近づきすぎてはいけないのでとれるルートのバリエーションがあまりないのだが、自分の足跡と2人のスノーシューハイカーのトレースとの間を忠実に滑った。 やはり板をはいて滑るとツボ足と格段に下山のスピードが違う。 途中、2-3度、雪が泣いたので(雪にスキーの力がかかったために中の弱層に圧迫がはいったり断層ができたりして音がする。場面のよっては雪崩を誘発する危険もある。)、ちょっと怖かったが。 雪庇の近くにいかなければ、雪も樹林から大きく剥離することもなかろうと思って手際よく進む。 14:50、行く手にゴールの狩勝峠が見えてきた。 

ハイランド富良野

 狩勝峠には観光客が休んでいる車が数台駐車していた。 ゴールデンウイーク中の車の数としては少ないほうだろう。 レストハウスの中を覗いてみたらこちらもまた、昭和時代からそのままタイムスリップしたようなお土産物が並んでいた。 荷物を片づけて15:30に出発。 峠からの富良野方面への下りでもう雨が降り出した。 本当によく雨の降ることだ。16:00南富良野の道の駅で休憩。 ヒグマのはく製が置いてある。 これだ。前回2012年の秋の北海道遠征で天塩岳に行く途中の林道で遭遇したヒグマ。 この2本足で直立した姿勢。 恐ろしかったなあ。 雨の中、富良野から少し滝川方面への国道を走って島ノ下温泉の「ハイランド富良野」に立ち寄って入浴。 ここは展望風呂で、ガラスに旭岳・美瑛岳・十勝岳などの山の形の絵が描かれている。天気が良ければこの景色が浴槽から見えるのに。 今日は全く何も見えない。 サウナで冷えたからだを温める。 風呂で気分爽快になっていざ、旭川へ。今夜の宿は道の駅東川である。 

道の駅東川「道草館」

  道の駅東川は「道草館」となっており昼間は物産がたくさん並んでいる。 早朝・夜間も館内のトイレは使える。道の駅の前にあるコンビニ「スパー東川」は前回の遠征でもお世話になった。 ごみを捨てることができる上、SeicoMartのちいさなパックのお惣菜を販売している。雨は強かったが車中泊。 これで3日連続車の中で寝る生活だ。 やっと、本物のバックパッカ―になってきた気がする。 5/6(月)朝6:00起床。 温度計が現在の気温3.4度を表示している。パッキングをして8時に給油してレンタカーを返却。 旭川空港まで送迎してもらい、10:15のJAL1100便にチェックイン。屋上の展望台に上がったらみぞれ交じりの雪だった。最初から最後までこんな天気だった。空港でお好み焼きを食べ、定刻通り出発の満席の飛行機に乗って東京に着いたら雲一つない快晴であった。 

 5泊6日という長い北海道遠征が終わった。 北海道で山に登るのは2006年、2007年、2012年に続いて4回目、一人で行くのは3回目であるが、今回は初めての残雪期ということもあり緊張ももっとも強かった。 他の登山者の全くいないところに行くかもしれない。 ヒグマに遭遇するかもしれない。 アプローチの林道の運転でトラブルがあるかもしれない。 などなどで、行く数日は相当計画書とにらめっこだった。 天気が良くないというのが週間予報でわかってからも、成功確率を50%くらいに落として想定してエスケープルートや代替の方法など研究した。 その意味では目標の山こそ登れなかったが、生きて無傷で帰ってくるという最大の目標を達成できた。 終わってみれば、胃薬ひとつ絆創膏1枚も使わなかった。 年齢・体力的に再度北海道に単独山スキー登山という機会はないかもしれないが、学ぶことの多い有意義な遠征であったといえる。
(2013年5月 記)

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地図の引用画像は国土地理院発行の数値地図50000(地図画像)と数値地図50mメッシュ(標高)を利用しています。(この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。承認番号  平13総使、第301号)
登山ルートの俯瞰図は、DAN杉本氏の開発したソフトウエア「カシミール3D」にて作成しています