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基本情報
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山名 |
乳頭山(にゅうとうさん)<烏帽子岳> |
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標高 |
1,478m |
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山域 |
奥羽山脈北部 |
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都道府県 |
秋田県 |
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位置 |
N39.48.17/ E140.50.18 |
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地図 |
昭文社 山と高原地図5「岩手山・八幡平・秋田駒」
2万5千分の1地図「秋田駒ヶ岳」
20万分の1地勢図「秋田」 |
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山岳区分 |
日本三百名山・東北百名山 |
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登山記録
山歩No |
3090-12016 |
登山日 |
2012年4月29日(日) |
歩程 |
5時間40分 |
天候 |
晴 |
形態 |
日帰り(夜行3泊4日) |
アプローチ |
JR田沢湖駅発乳頭温泉行きバス乳頭温泉下車 |
パーティー |
1人 |
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2012年のゴールデンウイークは東北への単独山スキー登山となった。 メインは乳頭山から秋田駒ヶ岳の縦走である。 山スキーのガイドブックにはこれが日帰りコースとして紹介されているが、歩程9時間。 私の実力ではとても日帰りは無理である。 最初から山中1泊で計画を立てた。 夜行で山に入り夜行で帰るの3泊4日スケジュールであるが、途中での悪天も想定し、初日に森吉山をピストン、最終日に焼山ピストンと単独峰アタックを入れて、間の2日間を縦走に当てることとした。 東京出発時は雨であったが、4月28日(土)は幸い絶好の天気に恵まれ森吉山での山スキーを楽しむことができた。 レンタカーを返却して、田沢湖駅から路線バスで乳頭温泉に入り、黒湯温泉の茅葺自炊棟に宿泊。汗を流してゆっくり布団にくるまって眠った。 |
黒湯温泉自炊棟
4/29(日)朝4:37起床。 あたりはもうずいぶんと明るくなっている。 前夜は夜行バスでやってきたのでこの温泉の一人部屋でゆっくり布団で眠ることができたのは助かった。5:00に自炊棟に行き、自由に利用できるプロパンガス・鍋をお借りして朝食の支度をする。 炊事場では水が常時出ている状態。 凍結防止のため沢水を出し続けているのであろう。どんべえをつくって、自炊棟の2Fの空き部屋に腰をかけて源泉を見ながら食べる。 パッキングを済ませて、部屋を片付けて6:20に出発。 出口と間違えて混浴風呂の方に行きそうになったが、早朝から風呂に入って散歩していた泊り客に、こっちだよといわれて坂を上がる。そこからすぐに孫六温泉経由乳頭山へのルート。 |
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孫六温泉
孫六温泉も鄙びたいい宿の雰囲気をかもし出していた。 温泉の敷地の中を通り、鳥居の前から乳頭山への分岐。 比較的新しい踏み跡があったので、それについて雪の斜面を上がっていく。 最初は少し急なのぼりが続いてツボ足で登る。 6:50に標高916mの地点で一回目の休憩。 尾根に取り付いたようで、ここからはシールのトレースもついている。 ラジオの天気予報では幸い昼間の降水確率がゼロパーセントだといっている。ゆるく下ったあと、道は東に大きく曲がりながら尾根に取り付いていく。8:03少しずつゆるやかになった樹林の中で一回目の休憩。 ここまで登山靴を履いて、スキー兼用靴をサブザックに入れて肩からかけてもってきたので、肩が痛くなってきていた。 ここで、スキーを下ろし、兼用靴に履き替える。 さらにスキーにシールを貼って登山靴をザックにしまう。 |
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1178m地点を越えて
自分のザックは55Lしかないので、テントを持った縦走や、山スキーなど防寒具を必要とするときには少し小ぶりで、パッキングにいろいろ苦労する。 8:28に出発。 そこから、道は比較的緩やかなのでシールをつけたままのぼることができるし、トレースがあり、木の枝に赤テープが巻かれているので、道を間違うこともないい。 樹林は次第に疎となり、右手に乳頭山から秋田駒ヶ岳方面への縦走路が眺められるようになる。ここからが意外に長かった。歩けども歩けども、田代平に着かない。途中、坂が急になったところでは板をはずしてツボ足で歩く |
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田代平避難小屋
結局、平坦な場所に出るまでさらに1時間以上かかり、田代平の避難小屋に到着したのは9:54だった。避難小屋は。頑丈なつくりで、1F部分の雪は掘り返されており、2Fからでなければ進入できないということはなかった。 小屋の前でカロリーメイトを食べて少し腹ごしらえ。秋田駒ヶ岳をバックに写真を撮る。10:20出発。そこから山頂直下まで約30分で到着するが、山頂は雪がなくなっており、雪原から進入するためには、やぶの中をつっきらないといけない。 地図では、夏道は、稜線のいったん南側に一本松ルート側をまわっているが、スキーで山頂直下までつけたために、やぶこぎに時間を使ってしまい、あとから来た2人組に先を越されてしまった。 |
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乳頭山山頂
乳頭山の山頂到着は11:32. 天気は快晴。 風が少し強いが景色はよい。 東に見える岩手山と西に見える鳥海山が標高がぬきんでて双璧をなしているという感じがした。 帽子を吹き飛ばされないように注意しながら、記念写真を撮る。 山頂には、はっきりと乳頭山を示す標識はなかった。 山名盤があり、それがまわりの山座同定を可能にしてくれていた。 山頂には鎖がついており山頂の東側は断崖絶壁となっている。山頂は崩壊が進んでおり、現在では三角点が山頂から無くなっている。このまわりに雪はまったくついていない。 12:00に乳頭山頂を出発。 当初計画から約1時間の遅れである。雪渓の上を注意深く下り、最後に雪のついていない南斜面を降りて12:50に1391mポイントの手沼ヶ原への分岐に到着する。荷物を降ろして休憩。
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笊森山
13:00出発。 ここから、笊森山への登りが始まる。 夏道を忠実のたどっていくが、ルートについている雪が、自分の体重で足を踏み抜いたりするので意外に時間をとられてしまう。 13:39、山頂までまだまだあることがわかって、途中で昼食を摂ることに変更する。 乾パンを食べるという案もあったが、結構空腹だったので湯を沸かしてラーメンを作ることにする。 思ったよりも早く湯は沸いて、昼食を済ませることができた。 14:16出発。 昼食を摂ってからは少し元気になり、笊森山のピークまで真っ白な雪の壁を登っていく。 稜線はここから大きく90度曲がって南西方向を向いて進むことになるので早池峰方面がきれいに見えた。 14:45笊森山に到着。 地図に書いてあるとおり確かに展望がいい。 これから進む秋田駒ヶ岳方面が手に取るように近づいてくる。
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熊見平
14:53出発。 ここからの道は南に向いて進むことになるので、肝心の縦走路の雪がほとんど融けており板をはずして進まざるを得なかった。 15:45宿岩が見える熊見平というところで休憩。 ここは広い雪原になっていて気持ちがいい。 ただ、視界の悪い日には方角を間違えるリスクもある。 16:00に宿岩を越えて、湯森山への登りを進む。 夏道ルートは斜面の左側のように見えたが、どうも、雪庇が張り出して亀裂を起こしているように見えたので、そちらを避けて斜面の右側にジグザグを切って登っていく。 登りきったところは平坦になっており、ツボ足で歩いたと思われるトレースもあった。 トレースにしたがって進むと17:13、湯森山(1471.7m)の山頂に到着した。 恒例の三角点タッチをして休憩する。
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湯森山
さて、道はここから南西の焼森へ行くコースと北西の笹森山へ行くコースに分かれているが、今日の宿泊地である八合目の避難小屋に行くためには夏道ルートのある後者のルートを進むことにした。 これは笹森山へは乳頭温泉からの樹林コースもあり、そこから八合目に歩いている人もいるはずだという前提に立ったものだったが、結果はあやしいことになった。 湯森山からの下りから見ると、鞍部から笹森山への東斜面の登りはかなり急な雪の斜面に見える。 左手の八合目へ下りる方向には亀裂も見える。 果たして雪崩が起きたりしないかという不安がよぎった。鞍部から直接八合目の小屋の降りることはできないかも目視する。 雪面は続いているように見えるが、但し、今日も気温が高かったことを考えると踏み抜きの危険がないとはいえない、また地図を見るかぎり、八合目の小屋に到達するためには一度沢をわたらなければならないことになっているがその谷の地形がわからない。 どちらのリスクを取るか迷ったが、前者の雪壁を登ることにした。
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笹森山南東稜
自分に自信を持てと自分で励ましながら、スキーをザックにくくりつけてアイゼンをしっかり履く。 ピッケルのカバーをはずして、右手に持ち、左手にはストックを1本だけ持ち17:59、ゆっくり直登していった。夕方になって気温は下がっているので30度以上ある雪面もアイゼンをけりこんだ感じは表層が不安定だという感じはしない。結果的には標高差40mほどの壁だったがずっと緊張の連続だった。 最後に難関が訪れた。 雪庇が落ちてデブリになったところからは人間の背丈ほどは本当に垂直の壁だった。 そもそもデブリに乗って亀裂が入らないか怖かったが、幸い少しずつ体重をかけても足場のデブリはびくともしなかった。 垂直の壁は上部にピッケルを50cm以上打ち込んで、それにつかまりながら、両足のアイゼンの前の爪を雪壁に立ててよじ登った。 18:12、笹森山の頂上直下の平坦部に到着した。 やれやれ、これで一安心だ。 |
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笹森山下りルートミス
ところが、油断したのか、そこから八合目に向かって下りているつもりが、本来ルートと違うひとつ西側の雪渓に入ってしまっていた。最初は踏み跡があるように感じて下っていたが、単なる風紋だった。 ずいぶん標高を下げたが、八合目の小屋がある台地に最後に亘る谷がとても深いことに気がついて、明らかに夏道のコースと違うことを知る。 18:26、意を決して笹森山の山頂まで引き返すことを決意した。 自分の踏み跡をたどり、熊を避けるためにストック同士をたたきつつわざと音を出しながら登っていく。 一日歩いて疲労困憊して足が思うようにあがらない。 18:55とりあえず山頂下の平坦地までたどり着いた。 そこで完全に日没。夕闇が迫っていた。 もう無理だ。 これ以上は行動できない。 八合目まで目と鼻の先に来ていたが、ここでビバークすることを決心した。 風をさけられるハイマツの陰を探して、そこに銀マットを敷いて、孤高の野営場所とした。
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ハイマツの中でビバーク
2009年5月に月山でビバークせざるを得なかったときと比べて今回は、シュラフ・ツエルト・食糧・EPIコンロ等必要装備はすべてそろっている。何しろ、ウイスキーがたっぷりある。携帯も微弱だが入る。 天気もいいので悲壮感はなかった。 唯一の不安が、熊との遭遇だったので、ラジオはイヤホンではなくスピーカーから音を出しながら炊事の支度をした。ビニール袋いっぱいに雪を入れてきて、それをEPIの火で融かして水から湯にし、アルファ米の中華丼を食べた。 昨日田沢湖の駅前で買った「チーズがっこ」はとても美味で満天の星の下でウイスキーの肴にすると少し落ち着いてきて一日の疲れがどっと出てきた。 明日のルートへの不安はあるが、なるようにしかならない。ピッケルに熊鈴を結びつけ、ハイマツの上におき、風や動物の接近で鳴るようにして、ストックをポール代わりにしてツエルトを張って21:30シュラフに入る。
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八合目の小屋に宿泊して、満天の星を見ながら他の同宿者と山の話に花を咲かせながらウイスキーを飲む。 この計画は残念ながら実現しなかった。 はからずもビバークとなったが、天気と装備が問題ない状態であったので、行動計画の想定の範囲に収まっているといえよう。 ただ、正直、日没近くなった状態で笹森山の南東稜の雪の壁を登るときには単独行ならではの不安にさいなまれた。雪崩の恐怖と滑落しても誰も救出してくれない、という思いを殺しながら、アイゼンをはいた。 自分に対して「心配ない、自分の経験と知識をを信じろ!」と言い聞かせながら登った。 無事に下山した今は本当にいい経験をしたと思う。気がつけば、この日は、朝、乳頭温泉で、早起きの湯治客に「こっちだよ」道を指摘されたのが、唯一の他人との会話だった。 東北の名山のメジャーな縦走路で誰にも会わない静かな山旅だった。
(2012年5月 記) |
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