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毛勝山
毛勝山

基本情報
1 山名 毛勝山(けかつやま・けかちやま)
標高 2415m(二等三角点)
山域 飛騨山脈 立山連峰北部
都道府県 富山
位置 N36.42.04/ E137.35.27 
地図 昭文社 山と高原地図36「剣・立山」
2万5千分の1地図「毛勝山」
20万分の1地勢図「高山」
7 山岳区分 日本二百名山
登山記録
山歩No 2580-20026
登山日 2020年9月21日(月)
歩程 11時間30分
天候 曇り
形態 前夜・後夜泊日帰り
アプローチ あいの風富山鉄道魚津駅県道132号線
パーティー 2人

 日本二百名山・三百名山を踏破する上でいくつかの越えなければいけない壁があった。 それは、①夏道登山道のない山 ②アプローチに時間のかかる山 ③コースタイム10時間以上で日の長い限られた時期しかいけない山 である。①は笈ヶ岳や猿ヶ馬場山・野伏ヶ岳などである。②は赤牛岳やペテガリ岳・上河内岳などである。
③は平ヶ岳や女峰山・二ペソツ山や笊ヶ岳・池口岳などである。 
毛勝山は、ある意味①でもあり③でもあった。 2012年6月、ピッケルとアイゼンを持って、片貝山荘に宿泊して、阿武木谷を詰めて毛勝谷を登るルートを考えた。 この時にはガイドブックには「北西尾根にも道は開かれているが毎年の刈り払いや整備はない」と記載されていた。
日本二百名山にその名を連ねながらも、永らく毛勝山は阿部木谷~毛勝谷という限られたルートで、初夏の限られた時期にのみ登ることを許された山だった。山頂までは急峻な雪渓を詰める必要があり、経験と熟練に裏付けられた判断力と体力を併せ持つ者にしか扉は開かれていなかったといえる。そこに2001年に魚津岳友会、とりわけ無雪期に富山県境の稜線を初めて踏破されたという池原等さんのご尽力で北西尾根をルートとする登山道が拓かれ、無雪期にも登ることが出来るようになった。

大宮駅

2012年6月に悪天のためあきらめた毛勝山は8年の時を経て北西尾根アタックをすることにした。
シルバーウイークの最中に関西に住むA.Dさんと黒部宇奈月温泉駅で待ち合わせてレンタカーで前夜のうちに片貝山荘まで入る計画とする。9月の8日に魚津市の教育委員会に片貝山荘の利用届けを郵送で提出。 2012年に続いて2度目の提出である。最初は9月19日(土)に移動して20日(日)に登ろうと思っていたが、9月15日(火)の段階で週間天気予報があまりよくない。 19日(土)が雨で20日(日)も降水確率が40%の予報である。 レンタカーのキャンセル料がかからない16日まで迷った挙句、出発を一日遅らせて、20日移動、21日(月)登山の計画に変更する。キャンセルしたレンタカーの店では同じ時間で1日ずらしで借りることができなかったので別の格安レンタカーの店に予約を入れなおす。 天気予報は前日の19日までよくわからない予報であったが出発する20日(日)には翌日21日の黒部市降水確率は20%まで下がったのでまあよしとしよう。 9月20日(日)、横浜では曇りがちの天気であったが朝9時過ぎに家を出て新幹線に乗車する埼玉県の大宮へと向かう。
 

日本海

乗車するはくたか561号金沢行きは11:50の出発であったが、大宮駅には11:02についたので、約50分の余裕がある。 昼食は早めに大宮駅近辺で食べることにした。 あいにく埼玉では小雨が降っていたのであまり駅から遠くまで行くのも億劫だったので
大宮駅の東口の富士そばでさくっと天ぷらそばを食べる。 450円なり。 Suicaも使えるようである。 まだあまり混雑していなかったので三密を避けることができた。 11:40に駅に戻り、チケットレスで新幹線に乗車。 今日は下車してからレンタカーを運転するので新幹線に乗ったからといっていつものようにビールを飲むわけにはいかない。 本を読んでいたが案の定30分くらいすると眠くなったので昼寝としゃれこむ。 3週間前に北アルプスに行ったときは富山駅で下車だったのでかがやきに乗車したが今回はひとつ手前の黒部宇奈月温泉下車であるためはくたかに乗っている。 上越妙高の駅や飯山の駅といったところを興味深くながめつつ(いつか信越トレイルを走破してやろうと虎視眈々と狙っている。 ) 糸魚川の手前に来ると車窓には日本海が晴れの空の下に青々とその姿を見せた。


黒部宇奈月温泉駅

13:44に黒部宇奈月温泉駅に到着。 駅名はこうなっているが実際には 富山地方鉄道の新黒部駅と隣接しているので実際に宇奈月温泉に行くときには乗り換えが必要である。 A.Dさんが駅の南口で待っていたので合流して徒歩でレンタカーの店に行く。 こちらの格安レンタカーは店舗に係が常駐しているわけではなく、前もって到着時刻を聞かれていたのでそれに合わせて受け渡しのために来てくれたようである。 この2日間お世話になるのは走行距離95千キロの日産マーチであった。 14時にさっそく魚津の町に向けて出発である。


魚津の町

魚津の町ではまず翌日の宿泊を予約しておいた民宿茶弥の場所の下見をする。 魚津の駅からは少し離れているが、辻わくわくランドという温泉施設に併設されておりゆっくり風呂に入れるというのが売り物だ。受付で魚津の観光マップをもらい、それから駅の近辺の翌日の晩に食事をするのにめぼしそうな店を何件か見る。この日の晩は片貝山荘宿泊なので食料と水はもっていかないといけない。 近くの大阪屋スーパーで購入する。 酒屋で日本酒を買ったのは言うまでもない。


片貝山荘

県道132号線をそのまま南西に片貝川に沿って進む。 レンタカーにナビはないのだがスマートフォンがあるので道を見失うことはなくまっすぐ進む。 途中の片貝保育所のところで水を汲んだが、1Lポリタンクを落として容器が割れてしまった。 困った。明日の長丁場の登山はこれがないと厳しいかもしれない。 仕方がないので2Lのハイドレーションの方は水を一杯にして出発。用意のいいA.Dさんは家を出る時から3L分の水を持ってきていた。片貝山荘到着17時。 荷物を運びこんで、車を翌日の登山口近くにまで移動させる。 ほぼ同時刻に多摩ナンバーの3人組の登山客が片貝山荘に到着して2Fの隣の部屋に入っていた。 片貝山荘は元は発電所の寮(東又寮)だったものを転用している。現在は魚津市教育委員会が管理しており、要予約。電気があり電灯がつくが水はない。水は持参しなければいけないので要注意である。 レイアウトはいくつかの個室に分かれており、マックス50人くらいは泊まれるらしい。 この日は宿泊者5名だったので余裕である。 田中陽希が宿泊したと同じ部屋でおでんと買ってきた日本酒を飲んで21時に就寝した。
 

毛勝山登山口

9月21日(月)朝4時起床。今日は長丁場になるので早めに出発する予定だったが、少し出遅れた。 隣室の多摩ナンバーの3人組は瞬く間に出かけていったが準備に戸惑った我々は車に荷物を積んで出発したのが5:25。 前日のうちに下見しておいた毛勝山登山口に到着したのは5:40だった。 歩き始めるといきなり急な登り。 ロープにつかまって登るところや木の根をつかんで登る。7:40、ようやく北西尾根にとりついた。 木の間から僧ヶ岳方面が見えるが上のほうは雲がかかっていてはっきりと見えない。 このあたりに1274mの道標があるらしいが気が付かなかった。 


三角点

8:14に標高1479.3mの三角点に到着。8:40にA.Dさんに遅れて歩いていると関西からの単独の登山者の方が颯爽と追い越していった。次第に樹林が低くなり9:14に石室のようなところを通過する。 横にはブルーシートがたたんでひもで結わえていた。 もしかすると非常用にビバークすることになった場合に雨風を避けるためかもしれない。 

 

モモアセ谷

9:55標高1849m地点で休憩。 ここまで標高870mほど登ってきたのでやっと半分まで来たということになる。さすがにハードなコースである。 10:22ここから道がなだらかになり池塘が現れる。一帯は「池原の草原」と呼ばれるところで、灌木や岩、池塘の点在する見晴らしの良い草原のようだ。天気があまりよくないので残念ながら景色はあまりない。 ほとんど独力で藪を刈り払い、西北尾根ルートを拓かれたという池原等さんにちなんだ名前なのだろうか。10:36モモアセ山到着。ここからまた少し稜線歩きが続く。一旦シラビソの樹林帯に入り、何度か小ピークを越えて、山頂手前の最後のピークである2151m峰に11:08到着。ここでA.Dさんは腹が減ったといって昼食にもってきていたカレードリアを半分ほど食べていた。 自分の少し栄養補給をするためにジェルを飲んでビスケットを食べる。 


クワガタ池

一旦高度を下げたところで標高2150mのクワガタ池に到着。ここかららいよいよ山頂への最後の登りである。 道はガレ場になっており登りごたえがある。そろそろ朝早く出発した人たちが山頂での昼食を終えて下山してくる時刻となっていたのですれ違いがときおりある。 前の晩に片貝山荘で一緒だった多摩ナンバーの3人の方も、我々を追い抜いていった単独行の方も、関西から来た快活な人ともすれ違った。 
 

山頂直下急登

急な坂を登りきると少しだらっとなったゆるやかな勾配の場所にきた。 花崗岩が草原からいくつか飛び出しているところであるが山頂のこぶの手前であった。 ハイマツのかこまれたところが山頂で2時間ほど前に追い越していった単独の男性がセルフタイマーで写真を撮影していた。 「あと30秒待ってください。 写真を撮ってあげますよ」といって声をかけて残りの力をf李絞って進んだ。

毛勝山山頂

12:16毛勝山山頂到着。先ほどの男性がわれわれ2人が来るのを待っていた。 山頂からの景色は残念ながらガスでまわりの山々を見ることはできなかったが、わずかに毛勝山の南峰はみえていた。 山頂に到着する前に朝追い越していったトレランスタイルの元気な二人組の男性に南峯までは言ったのですか? と聞いてみたが、山頂標識は北峯だから南峯まではいきませんでした。 と言っていた。 確かに20分かけていくほどの展望があるわけではないのでさもありなんという感じである。本当は天気がよければここから五龍岳や剣岳がよく見えるのであるが、今日は残念ながら運に恵まれなかったということであろう。 山頂ではカレードリアを頬ばる。 風は結構冷たいのでレインウエアの上をはおってちょうどである。 山頂写真だけは思う存分に撮影して約50分滞在した。

 

長い下り

さて、13:10山頂出発。 ここから恐怖の5時間下りである。 6時間の登りで5時間の下りでひとつの峰を登頂するというのは平ヶ岳や二ペソツ山を登って以来のようにも思う。 日没までに下山するというのが目標だったが山頂を出発するのが13時を回ってしまったので難しいかもしれないと思いつつ、慎重に歩を進める。 急坂だけにストックを使って転倒しないように進む。 後ろを歩くA.Dさんはダブルストックだ。 私のリュックに13L と書いてあるのを見て、よくそんな小さなのがありましたね、と感心する。 こちら実はハワイで買ったトレラン用のものである。ハイドレーションを格納できるので、結構重宝している。

ヘッドランプ装着

14:23モモアセ山通過、もはや下山者はひとりもいない。 またいつものように我々が最後の組になってしまったようだ。 焦る道でもないが、マイペースならぬアワペースで進む。16:35 1479.3mの三角点で休憩する。 三角点の手前で少しやぶの中で何かが動いたように見えた。 やはりクマがいるのだろうか? 2012年の7月に登った人の記録ではクマと本当に物理的にぶつかっている。恐ろしい。 本当は三角点で休むつもりであったが、怖いので先を急ぐ。17:28 標高1289m地点 このあたりでもはや樹林の中では暗くなってクマと遭遇してもわからないと先を歩く自分が先にヘッドランプを取り出す。 まだ500m近く標高があるのでどう考えても1時間以上の夜道歩きとなりそうである。

下山、無事に民宿へ到着

18:57 ようやく下山。最後はヘッドランプを照らしながらの下山だったのでロープを使って降りるところなどでは相当に気を使ったが何とか下りきることができた。 登山口にはまだ3台くらいの車が駐車中だった。 車の1台は金沢ナンバーで我々が来た時から駐車してある。 まさか、山にはいったきり下山してきていない人の車ではないかと心配になった。 片貝山荘に宿泊して明日登る人がいるのかと思いつつも片貝山荘も真っ暗だったので不思議だなと思いつつ、自分たちの車に乗り込んだ。ここから片貝川に沿って未舗装の道を進む。 さほど落石があったりするわけではないが、片貝キャンプ場までは発電所までの道をゆっくりと走る。 橋をわたって魚津の町の街灯があるところまできたらほっとした。 予約していた民宿には当初19時にチェックインするといっていたが、まっすぐいっても20時になりそうなので車の中から電話をする。 もう魚津の町に出て刺身を食べる元気はなく、スーパーで刺身を買って民宿茶弥に20時半到着。 部屋に入って風呂につかると生き返った。

魚津埋没林博物館

翌日は民宿の自炊設備を使って朝食に雑炊をつくる。 8時から風呂に入り、ゆっくり過ごす。 10時にチェックアウトして民宿の前の水道で靴を洗う。 車で20分ほどいった海沿いに埋没林博物館があるのでそこを見学する。蜃気楼と洞杉の概要を説明したVTRを興味深く見る。 博物館の屋上は海と山を一望する展望台となっていた。 今日も山の上にはガスがかかっているようだったが展望台からは白馬岳や雪倉岳の姿を確認することができた。13:00にレンタカーを返して黒部宇奈月温泉駅から新幹線で帰った。 昼食に食べた富山のますのすしがうまかった。


日本三百名山を目指したときに果たしていけるかどうかと悩んだ山がいくつかあったが、この毛勝山はその中のひとつだった。 1日の標高差1750m、累積表区1880mというのは縦走以外では経験したことのない世界のような気がする。 一緒に行ってくれたA.Dさんには感謝したい。 毛勝山自慢の展望を楽しむことはできなかったが、魚津の町の美しさにも触れて満足であった。 無事に下山したことの報告と片貝山荘利用のお礼を魚津市教育委員会にメールで送った。今度は僧ヶ岳に登りにこようかと思う有意義なシルバーウイークの休日であった。

(2020年9月 記)

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地図の引用画像は国土地理院発行の数値地図50000(地図画像)と数値地図50mメッシュ(標高)を利用しています。(この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。承認番号  平13総使、第301号)
登山ルートの俯瞰図は、DAN杉本氏の開発したソフトウエア「カシミール3D」にて作成しています