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ペテガリ岳
ペテガリ岳

基本情報
1 山名 ペテガリ岳(ぺてがりだけ)
標高 2841m (三等三角点) 
山域 日高山脈
都道府県 北海道
位置 N42.29.58/ E142.52.16 
地図 2万5千分の1地図「ピリガイ山」
20万分の1地勢図「浦河」
7 山岳区分 日本二百名山・北海道百名山
登山記録
山歩No 2050-23051
登山日 2023年7月21日(土)~7月23日(月)
歩程 第一日 3時間40分(ペテガリ岳登山口―ペテガリ山荘)
第二日 12時間 (ペテガリ山荘―ペテガリ岳山頂―ペテガリ山荘)
第三日 3時間30分(ペテガリ山荘―ペテガリ岳登山口)
天候 快晴
形態 小屋泊2泊3日
アプローチ 浦河より国道235号 道道348号で元浦川林道経由で神威山荘
パーティー 1人
動画URL https://youtu.be/8wXMlCHNDNI
https://youtu.be/ET_ODMaOZRU

 ペテガリ岳は昭文社の日本二百名山のガイドブックの中でも「登頂困難な二百名山」のリストの中に入っている。 何しろ、登山口からの往復コースタイムが19時間10分というのは北・南アルプスの山を除けば一番長いのではないだろうか? このコースタイムも、神威山荘まで車が入ることのできる期間だけでの話である。2022年の皆さんの登山記録を見ると新ひだか町から神威山荘へと続く元浦川林道の途中が崩落しているためにさらに多くの時間がかかっている。 2023年夏の計画の中に当然のごとく入れたが本当にアタックを決断したのは、6月に日高南部森林管理署に電話をしてこの崩壊した林道を夏場に通行できるように復旧していることを聞いてからである。前年ほとんど登山者がいなかった山なのでヤブ漕ぎ必死であるが登頂できるチャンスが来たのはうれしいことである。 

神威山荘

 2023年7月21日金曜日、朝5時に神威山荘で目を覚ます。この晩も神威山荘での宿泊は自分ひとりだった。前日は日本三百名山の神威岳に登って下山後再びここへ宿泊した。 朝食を食べて出発のための準備をしている、小屋の前に軽自動車が到着して登山者の方が下りてきた。 この方は神威岳には登らずに、ベッピリガイ沢を超えてペテガリ岳に登るというバリエーションルートだ。(後で実はこの方はペテガリ岳の山頂でお会いすることになる。)

ペテガリ岳登山口

 7時12分、神威山荘を出発。車で少し下り、ペテガリ岳との分岐で林道を右折して、そこから数百メートルほど進んだ場所に駐車。 駐車スペースははっきりとした広い広場はなく、路肩に邪魔にならないように寄せて車を停めた。 8時24分ここから歩き出しである。 まずひとつチさな沢を渡る。 そこから ピンクテープに従い林道を上がっていくと広場になった場所から急に下って沢へと入る。 ここが以前の登山口だったようである。 ただ、台風の影響でその手前の川が増水したのでもはやここまで車で入ることはできない。 登り出しはピンクテープにほぼゆるやかな草地をたどっていく。 やがて斜面を横切って沢の中へと入る。これもどうも後から付けられた道のようである。 ピンクテープに従いながら登っていく。 次第に傾斜は急になってくる。 

クマスプレー誤射事件

 9:23に一度休憩をする。 荷物が重いので思いのほか休んでしまった。 荷物が重たいので木の根っこがあるところに荷物をかけていたのだが、この時にハプニングが起こる。 なんとリュックに取り付けていたクマ撃退スプレーが暴発してしまった。 スプレーの液体が飛び出したのはわずかの量であったが、リュックに着いた赤茶色の液体を手でとったので、手袋が唐辛子臭くなってしまった。 リュックについたものはふき取ったが、ちょうど背中に当たる部分に液体がついたので背負ったときに背中と擦れてヒリヒリする感じがある。休憩を切り上げて出発してからもさらに歩いて汗がダラダラ出るとその汗が目に入ると目が痛くてたまらない。暴発した瞬間は咳が出た。 しばらくすると咳は収まったが、まだ鼻の下がヒリヒリするような感覚である。しばらく歩いては汗をぬぐい、またゆっくりと歩き出すということで随分と時間をロスしてしまった。10時13分に大して進んでいないのに2本目の休憩をとる。

ベッピリガイ乗越を過ぎて

本来2時間ほどでベッピリガイ乗越たどり着くはずだが実際には到着したのは11:20分であった。荷物にペットボトルの水を6リッターも入れているのが結構重たいようである。ベッピリガイ乗越では一旦座って昼食を摂ることにした。 それから沢靴を登山靴に履き替える。 標高660mのこの峠から道は下り坂になる。下りも結構傾斜が急な沢の中を通るところがあったが、さほど濡れるというほどではないのでそのまま登山靴で進む。

人工林横の林道でヒグマに遭遇

 途中で後から男性が一人追い越して行った。標高550mほどの所にくると道が緩やかになった。 やがて林道と思われるような道に合流した。ここからは人工林と書かれた札のある林道を進んでいく。 平坦で歩きやすくて良いのだが、なんとここで林道の先のほうに黒い動物がいるのを発見した。 やばいヒグマだと思った瞬間、このヒグマがクマ鈴を付けた私の存在に気づき、林の中に逃げてくれた。 距離は100mほど離れていただろうか。 危ないところだった。その後は視界の悪いところでは必ずホイッスルを吹きながら進む。 熊よけスプレーは安全ピンが外れたままの状態なのでいつでも噴射できるスタンバイでこわごわと進んでいく。
 

沢の渡渉後、林道が崩壊

 ベッピリガイ沢の渡渉点ではは少し水かさがあったので一度沢靴にを出して、そ渡渉してらもう一度登山靴に履き替える。渡渉が終わった先には、一頭のエゾシカがいた。 シカはこちらの存在を見ても逃げないようである。 このあたりまで来るとペテガリ山荘まであと4キロと記載された表示が現れた。 ベッピリガイ沢川に沿って林道を進んでいく。 一箇所林道が崩れているところがあった。 林道の上で地滑りが起きて道が落ちて川の中に吸い込まれてしまって、崖になっている。 前々日、神威山荘にいるときに、神威岳から下山してきた埼玉県のご夫婦が、神威岳に登る前にペテガリ岳を登ったそうであるが、その時にこの林道の崩壊した場所の話をしていた。 無理に崩壊部分を避けてた森へ高巻くのではなく水際に近いところをへつっていくのがいいと言われていたので、実際にそのようにして進んでみた。歩きにくかったが川に落ちることもなく無事に通過することができた。

ペテガリ橋

 ペテガリ山荘まであと2.5キロという表示が現れ、合わせて林道上に徐行と書かれた自動車向けの標識まで出現した。この道は昔はそれを通行していたのであろうか。荷物が重く背中もヒリヒリするのでなかなかスピードが上がらない。 苦労しながらそれでも今日のうちにペテガリ山荘に着けばいいやと言うぐらいに腹をくくって、14:30ペテガリ橋を通過。 ここからは山荘まではもうすぐである。 ちょっと登りになったが、ジグザグの林道を上がって山荘に14時47分到着である。 山荘の中には朝出発するときに、先に出発していた松戸から来ている男性が到着していた。私が来るのが遅いので心配してくれたようだ。山荘は定員60人泊れるというだけあって大きな小屋である。 二階に寝ている人もいた。 

ペテガリ山荘

 自分のあとにも登山者が何組か到着して山荘の宿泊は総勢で18人くらいとなった。 あとから来たカップルはやはり林道で親子のヒグマに遭遇して相手が動いてくれないのでそっと横を通っていったと話してくれた。 そうこうしているうちにこの日にペテガリの山頂に登頂した登山者が何人か下山してきたので、いろいろ話を聞く。 皆さん一様に稜線上の長い歩きと最後の標高差500mの藪漕ぎの登りの話をしていた。 翌朝早いので早めに夕食をすませて、20時に就寝した。北九州から来た男性は2時過ぎに起床すると言っていたので、私も2時半前には起きるつもりにする。 

早朝から出発、朝日の登山道

 2023年7月22日土曜日、いよいよって山頂アタックする日がやってきた。 2時30分起きて朝食の準備をする。 湯をわかしてカップそばを食べる。 余分に湯をわかして昼食用にアルファ米にも注いでおく。 できるだけ荷物を軽くして、3時47分出発する。 一緒になった東京の男性が電子ホイッスルを持っていたのでまだ暗い中登山道に入る前に鳴らしてくれた。 これで登山道の近くをうろついているヒグマがいなくなってくれると助かる。 ほぼ真っ暗な中をヘッドランプをつけながら、登り出しの沢沿いの道を進んでいく。 やがて沢を離れてジグザグの登りを経て尾根にとりつく。尾根沿いの道を斜めに進みながら次第に空が明るくなってくるのを見る。  4時41分正面に1050mのピークが現れた。 
 

1301m展望台

 ピークに到着して少し休憩をする。さらにそこから先ゆるやかな登りを経て標高1293mのピークを6:34に通過する。先行した電子ホイッスルの持ち主が休憩していた。 ここから小さなピークを上ったり下ったりを繰り返して行く。 右手には次第に中ノ岳と神威岳が見えて来るようになった。  7時49分 標高1301mの展望台と呼ばれるピークに到着する。 ナここから北東に目指すとペテガリ岳の山頂が見える。 標高差500mを登らなければならない。 急峻にそそり立つような感じがした。 1301mの展望台から一旦1250mの鞍部まで下る。 鞍部には静うち山岳会の「高山植物を大切にしようという」立て札があった。 さあここから2時間強の登りである。ほかの人の記録にあったように傾斜が急だというだけでなく、笹やぶをかき分けて進んでいくことになる。笹の葉の裏にはマダニがいたりするので要注意である。

ペテガリ岳山頂

 笹の要所要所を過ぎると次第にハイマツが現れた。 ハイマツの上を越えるようにして標高を上げていく。最初ピークに見えたところは実はピークではなくて、ここから先にさらにピークが繋がっていた。 一歩ずつ呼吸を整えながら登って行く。 10時9分ペテガリ岳山頂到着である。 三角点にタッチする。 山頂にすでに2人の人が到着していた。 しばらくすると中ノ岳方面の登山口からヘルメットを被った男性が到着した。 東側のルートも廃道と化してると言っていたこの男性の顔をよく見ると昨日の朝、神威山荘を出発する前にそこであった方であった。 さすが地元の人は逞しい。 バリエーションルートをたったひとりで進んできたようである。 ヒグマに逢いませんでしたかと聞くと、 糞はたくさんあったよと答えられた。 比較的に軽装に見えるが山中で一泊されているのでツエルトやシュラフを持っているということもあったのだろう。 その装備でここまで上がってくるというのはすごいことである。

日高山脈縦走路

 山頂からは360度の展望であった南側には一昨日登った神威岳とソエマツ岳が綺麗に見えた。 東の方にはニペソツ山など東大切の山から大雪・十勝連峰の方も遥かに見ることができた。そしてなんといっても日高山脈の縦走路である札内岳 カムイエクウチカウシ山・1893峰などがきれいに見えた。 山頂で万歳三唱の写真と動画を撮影する。 持ってきたアルファ米とカップ味噌汁で昼食。 景色がいいので名残は尽きないが、何しろ距離の長いコースである。 10時49分下山開始。 急な下りをハイマツの中を標高1250mの鞍部のところまではバリエーションルートを通ってきた男性も後ろからやってきた。 聞くとこの1250mの鞍部からヘッピリカイ沢に下るということである。 すごいとしか言いようがない。

1050m峰を眺める稜線

 1301mの展望台に行く途中、山頂であった黒い服の男性が何かを探している。 サングラスを落としたということで困っている様子だった。 途中で落ちているのを気がつかなかったので見えなかったと答えた。 実際にはその方はすぐ手前で落としていたようで発見することができた。 よかった。 1301mのところからは少し平坦な稜線を進む。 1293mの峰の上で山頂にいた方が足の調子がどうも良くないということでテーピングで手入れをしていた。 聞くとデポしてあったはずの水が見当たらないということである。 残量大丈夫かと確認したらなんとかいけそうだということであった。 15時7分に最後の1050m峰に到着する。 ここで本日の登りはほぼ終了である。 残りは1時間でペテガリ山荘まで下るだけである。 16時9分ペテガリ山荘に到着。 歩き出してからほぼ12時間半の行動時間であった。日のあるうちに下山することができてよかった。 山荘の中に入り昨日とほぼ同じ位置で寝ることにした。 松戸から来ていた男性は下山が早かったのかもうその日のうちに下山してしまったようでペテガリ山荘にはいなかった。 東京の方と北九州の方といろいろ山の話をしながら、とは言え翌日山頂アタックする人たちもいるので夜の8時は就寝した。

ベッピリガイ沢川渡渉点のエゾシカ

 2023年7月23日月曜日、朝はゆっくり5時半まで寝ていた。昨日の疲れが相当溜まってるようである。 この時間にペテガリ山荘にいるほかの登山者の人たちも今日は下山するだけという方が多いので、三々五々、6時半から7時ぐらいの間に出発して行く。 東京の方が山荘の前で写真を撮ってくれた。 下山前の動画を撮影して、7時12分下山開始。 なんといっても気をつけなければいけないのは人工林の横の林道である。自分の後にも熊に遭遇している人がいる。 橋の近くには比較的新しい熊のマーキングあった。 時折ホイッスルを吹きながら進んでいく。 渡渉地点の所には今日もまたエゾシカがいた。 途中で北九州の男性に追いついたが、男性は少し足が痛いのでゆっくり歩くということであった。 ベッピリガイ乗越へ登るところで少しルートを間違えてしまい踏み跡が薄くなったので気がついて引き返して正しいルートに戻る。 乗越までは結構急な登りであったが、10時に到着。 そこで行動食を食べたここからは沢を下っていく。

下山 元浦川林道を戻る

 沢シューズに履き替えて、来るときに通った道をピンクテープをたどって行く。 来る時と違うルートで駐車場の方に向かおうとしたら、相当崩れた跡地があった。 やはり台風の影響でこの登山口がだいぶ崩れているようである。 11時45分駐車地点に到着した。 クロージングの動画を撮影して荷物を片付けて、再び元浦川林道を走って行く。 両側には結構危険なところもあるので慎重に運転が必要である。 新ひだか町に出てから国道246号線を東へ苫小牧方面へ進む。 途中のみついし昆布温泉蔵三で日帰り入浴をする。 入浴施設の横に休憩所もあって畳に寝転がると気持ちが良かった。庭から見える太平洋の景色も最高だった。 この日は天気が良いのでテント泊と決めていたので厚真町の大沼野営場に宿泊することにした. 久しぶりにセイコーマートで唐揚げなどを買って日本酒と一緒に楽しんだ。

念願のペテガリ岳にようよう登ることができた。 日本二百名山のガイドブックを見たときに山小屋までの林道歩きが13時間という記載があったのを見て、とてもこの山は簡単にはいけないと覚悟を決めた場所であった。ずっと計画を温めてきて、この2023年の夏山遠征でもメインイベントのひとつであったと言える。 遠征の最終盤に来て素晴らしい晴天に恵まれて、長い歩きと過去にない一日の標高差とその日はくたくたになったが、下山した今となってはよい思い出である。 
 (2024年1月記)

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地図の引用画像は国土地理院発行の数値地図50000(地図画像)と数値地図50mメッシュ(標高)を利用しています。(この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。承認番号  平13総使、第301号)
登山ルートの俯瞰図は、DAN杉本氏の開発したソフトウエア「カシミール3D」にて作成しています