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カムイエクウチカウシ山
カムイエクウチカウシ山

基本情報
1 山名 カムイエクウチカウシ山(かむいえくうちかわしやま)
標高 19791m (一等三角点) 
山域 日高山脈
都道府県 北海道
位置 N42.37.30/ E142.45.59 
地図 昭文社 山と高原地図3「大雪山・十勝岳・幌尻岳」
2万5千分の1地図「札内川上流」
20万分の1地勢図「浦河」
7 山岳区分 日本二百名山・一等三角点百名山
登山記録
山歩No 2040-23046
登山日 2023年7月16日(日)~7月18日(月)
歩程 9時間30分(幌尻ゲートー八ノ沢出合ーカムイエクウチカウシ山ー八ノ沢出合ー幌尻ゲート)
天候 晴時々曇り
形態 テント泊2泊3日
アプローチ 帯広・広尾自動車中札内ICから国道236号線道道111号線札内川園地
パーティー 1人
動画URL https://youtu.be/xB3r3YtZJE4
https://youtu.be/Xx5LYQL3oR4

カムイエクウチカウシ山は日本二百名山で最も登頂するのが難しい山と言われている。整備された登山道がなく、難所が多いことが大きな特徴のこの山。 繰り返し沢を渡渉したり、藪漕ぎや急登をこなしたりする必要があるなど、山頂までの道のりは非常に険しく、滑落による事故も数多く発生している。 また、ヒグマと遭遇する可能性もあるため、気を抜けない山行となる。アイヌ語では「熊の転げ落ちる山」との意味があるが実際に、八ノ沢カールはヒグマがかなり頻繁に目撃されていて2019年には2019年は2件の事故が起こり、登山自粛要請が出たこともある。こんな山に果たして自分が登れるのだろうか? ずっと自問自答してきたし、また、今回の北海道遠征の準備もこの山の2泊3日の行動計画にかなり神経を使った。 ただ二百名山をすべて登るためには避けて通ることができないのも事実である。 

更別村Sarapark

 2023年に7月16日(日) 朝6時起床。 更別村Saraparkホテルで目を覚ました。幸い前日あれだけ蓋雨は止んでいるようだ。この調子であれば、本日登山が開始できるかもしれない。 朝食は昨日コンビニで買ってあった食事をとって、荷物を片付けて出発の準備をする。 インターネットで札内川ダムの流入量を調べた。 11.2立方メートル毎秒とある。 水の量はかなり多いようである。ヤマレコやYAMAPで登山記録を公開している人の内容を見ると、札内川からの流入量が3.7平方メートル毎秒だったとか、5.3立方メートル毎秒だったとか、そのレベルで登山を決行しているようである。それらの人と比べて2倍の量というのは、いったい川が果たしてまともに渡渉ができるのかどうか全くわからない。 増水時は渡渉不可と書いてある昭文社の地図を見比べて、とにかく沢の状態をみないことには何とも言えないので行ってみることにした。 ホテルSaraparkを8時10分にチェックアウトする。 基本は無人なので指定されたポストに鍵を返却して行く.。

日高山脈山岳センター

 車を走らせておよそ30分程で中札内村に入った。 目指す登山口は札内川の上流であるので、まずは札内川園地に向かって車を走らせる。 9時5分に札内川園地に到着。 ここはキャンプ場も兼ねているがトレーラーハウスやバンガローがあったりして結構広い立派なキャンプ場である。今日は日曜日で明日は海の日の祝日であるが、残念ながら昨日土曜日が大雨だったこともあり、キャンプに来ている人はそんなに多くないようである。 駐車場の車は閑散としている。 登山の準備をして時間を使っていると10時になって日高山脈山岳センターのオープンの時刻となったので、中に入って見学をする。 カムイエクウチカウシ山やエサオマントッタベツ岳といった日高山脈の有名な山の景色の写真が展示されているだけではなく、 日高山脈の自然やさらにはヒグマの生態に関する展示があった。 1970年の福岡大学ワンダーフォーゲル部の痛ましい遭難事故の時に若者3人を襲ったヒグマはハンターによって駆除されたが、その剥製もここに飾ってある。

幌尻ゲート

日高山脈山岳センターの見学を一通り終えたそこからさらに車で奥に入る。 札内ヒュッテの前の駐車場は渓流釣り客の車でいっぱいだったが、 登山者としてはまだ先に入れるので、トンネルを抜けて少し進んだ先が幌尻ゲートであった。幌尻ゲート到着11時。登山の準備をして11時16分に歩き出す。林道をしばらく歩いていると釣り客の人が橋の上で竿を垂らしていた。 片方の足に四つぐらい熊鈴をぶら下げて歩いている。さすがである。 歩き始めて一時間ほど経ったところでいったん休憩をする。 結構日ざしが出てきて暑いぐらいである。 幌尻ゲートでは自分が到着してしばらくして11人の団体が来たので、今日は自分よりも後ろに人がいると思うと精神的に安心である。

札内川 増水

13時35分七ノ沢の出合に到着した。正確に言うと七ノ沢の出合いよりはもう少し手前なのであるが、増水のために林道が水没しており完全に川のような状態になっているので、ここからまっすぐに進むことができない。 仕方ないのでの沢用のシューズに履き替えていると後から11人の団体がやってきた。彼らもここで沢の装備に履き替えをしている。 リーダーと思われる人はユーチューブの動画に出ていた方だと見受けられた。おそらく経験豊富な方だと思われる。  11名が先に渡渉を開始する。自分もその後について沢に入って行く。結構膝上ぐらいまで水が来るので水の勢いが強く恐ろしい。 団体から15分ほど遅れて進むことにする。彼らはルートファインディングに慣れているからだろう、結構すいすいと進んでいく。 自分は彼らの足跡を辿りながら比較的歩きやすい道を探して行く。 ところどころピンクテープがあるが必ずしもテープがあるところが一番歩きやすい道だとも限らないので、臨機応変に沢に入ったり出たりする。

八ノ沢出合ーテント場

 15時23分前にいたパーティーが中州のようなところでテントを張っている。ここが八ノ沢出合のテント場である。リーダーの方に聞くと以前と比べて八ノ沢出合のテント場も様子が変わってしまっているらしい。 大水で流されてしまったのでもう少し平坦地スペースだったテント場が流木などの間を縫って張ることになってしまっていた。 前のパーティーは7張ぐらいのテント張ってたので結構なスペースを使ったがそれでも自分のテントを張る場所は充分にあった。彼らのテントからあまり離れてないところで自分もテントを張る。 そして明日に備えて夕食の準備を始める。 八ノ沢の出合のテント場でヒグマが目撃された情報はないのだが、七ノ沢あたりではクマが目撃された情報もあるのでまあ注意するに越したことがない。比較的匂いの少ないアルファ米にお茶漬けの素、そして味噌汁と言う質素なメニューで夕食を摂る。 明日に備えて夜の8時には寝袋の中に入った。
 

八ノ沢遡行開始

2023年7月17日朝3時50分起床。いよいよ今日はカムイエクウチカウシ山へアタックする日である。 起きて湯をわかしてカップそばを食べて、余った湯をアルファ米に注いで昼食用としておく。前の11人パーティーは4時に出発した。 自分はそこから少し時間を置いて、4時15分にテントを出発する。 スタートから登山靴ではなく沢シューズである。 登山靴はマイバッグに入れてロープでリュックに括り付けておく。 太陽はまだ上がっていないが明るくなっているので充分に歩くことができる。昨日アタックして下山してきた2人組の人のテントの横を通り沢の入り口はここだよと教えてもらいながら、八ノ沢の遡行を開始する。


三股

 八ノ沢は結構増水であふれたのか、道が分かりにくくなっている。 幸い11人パーティーが通過していったあとに岩場が濡れているところがあったのでそれに従いながら沢を登っていく。 一番気を遣うのは急流の渡渉である。 一箇所は膝の上まで水につかるようなところもあった。道が分かりにくくなってケルンをたよりに道を発見して戻るような場面もあった。しばらく沢に沿って進んでいく。 やがて左側に大きな滝が見え、右側から別の沢が合流していた。ここが三股と呼ばれる場所である。 水量が多いのでゴーゴーと音を立てている。 前の11人パーティーはここで沢シューズを脱いで道の脇にデポしている。自分もそこから少し上がったところで沢シューズをデポした。登山靴に履き替えそこから沢の脇の登山道=実際には踏み跡であるが、を上がっていく。

一の滝トラバース

 明らかに滝と思われるような場所があって一体ここはどうやって登るんだろうと思ったら実は滝の横にトラバース道があった。とは言えはっきりした登山道ではないのでピンクテープを頼りにトラバースルートを上がっていく。滝を渡ってしばらく進み、水量が減ってくるのがわかる。 最後に傾斜がゆるやかになってきたところが八ノ沢カールの尻の部分であった。急登を登り切って少し平坦になったら八ノ沢カールが見えた。 

八ノ沢カール

 9時13分八ノ沢カールに到着した。 前の11人パーティーは姿は見えないか稜線を登っている声がしている。 八ノ沢カールには1970年の福岡大学ワンダーフォーゲル部の事故の慰霊碑のプレートが岩に貼り付けられている。慰霊碑に向かって黙とうして進んでいく。 八ノ沢カールから進路を南に変え、そして急坂を登って行く。カムイエクウチカウシの山頂から南東の1853m峰に伸びるこの稜線に取り付くのは結構急登であるが道は踏み跡があるのでそれに従って進んでいく。

 

稜線上のテント場

10時ちょうど標高1700mの地点に到着した。あいにくガスが上がってきており視界が遮られるようになってきた。しかしながらこの部分は高山植物がきれいである。 紫色のエゾフウロが目を和ませてくれる。さらに高い方向に向かってルートを進めていく。山頂まではおよそ残り280mの標高差である。 一時間ほどで着くだろうか。稜線上に出てからも視界はあまりよくないのでハイマツの中をヒグマと遭遇せぬよう時々ホイッスルを吹いて気をつけながら登って行く。登ってる途中で4人ぐらいのテントが張れそうな場所が2-3カ所あった。山頂直下にもテント場にできそうな場所があった。このテントはは本当に天気さえ良ければ夜空一面の星が見える一等地なのであろう。 とは言え八ノ沢カールがヒグマの巣窟であると考えると何か泊まるのがためらわれるような場所でもあった。

カムイエクウチカウシ山山頂

 最後のテント場をすぎ、ハイマツの岩場を登っていくと、11時9分山頂の三角点の標柱が見えた。 カムイエクウチカウシ山山頂到着である。 標高1979m、一等三角点で記念写真を撮る。 GoProの三脚を出して、リュックの中にさして万歳三唱の動画も撮る。 来る途中で先ほどの11人パーティとすれ違ったので、山頂にはもはや誰もいなくて、完全に山頂独占状態である。 熊が怖いので時折笛を吹きながら持ってきたアルファ米の昼食を食べる。 11時35分来た道を引き返す。 ハイマツ稜線は天気が悪く結構風が吹いていた。 下りになると八ノ沢カールに雪渓があるのが見て取れた。 この稜線上の一等地のテント場に泊まる人はあの八ノ沢カールの水場で水を汲んでから上がってくるのであろう。 

下山中に滑落

1856m峰との分岐を過ぎて更に急登をカールの中に降りる途中に結構新しいヒグマのマーキングを見つけた。 やっぱりヒグマがいるのである。 気持ち悪いなと思いつつ、遭遇しませんようにと祈りながらカールに向かって降りていく。  12時36分八ノ沢カール到着。 ここで体制を整えていざ下りのルートに入って行く。 登るときに上がってきたルートは下りでは滑りやすい岩場なので結構気をつけながら降りていく。 滝の横にはトラバースルートに固定ロープがとりつけられたりしてあって、あまりロープに頼らないようにしながらもゆっくりと下りていく。 第1の滝に降りた時、その横のトラバースルートが滑滝状になっており、足場をうまくとることができずにそこから2mほどしりもち状態で滑り落ちてしまった。 足をひどくぶつけたので一旦バンテリンを塗って応急処置をして大事ないことを確かめてから再び下山を開始する。三股に到着した時に前の11人パーティーが休憩しているのを発見した。そこを過ぎて自分はしばらく行ってそれから沢シューズに履き替える。自分が休憩してる間に11人パ、ーティーはまた先に降りていった。 18時11分に日没を前にして八ノ沢出合のテント場に到着した。 終了動画を撮影したが自分の声がヘロヘロであることがよくわかった。登頂出来た喜びで持ってきたウィスキーを飲みテントの中で乾杯しながら20時に就寝する。

最終日 沢を下る

2023年7月18日(火)いよいよ八ノ沢から下山する日である。 11人パーティーは6時に降りていった。 この人たちを見送った後に自分も6時15分に出発をする。 彼らはやはりルートファインディングが確実なのだろう。 結局全然その後追いつくことはなかった。 彼らの足跡をたどるようにして進んでいく。途中人間の足跡だけではない獣の足跡があるような場所もあったりして結構緊張する。 10時七ノ沢の出会いのフリールートの高架道が見える。少し急流の部分があったがうまく渡り切って元の林道に出ることができた。 とは言え自分が入渓した場所は林道が大きく水没しているのでガードレールにつかまりながら渡ったのだが、足が滑ってしまいガードレールの端で顔をしこたまぶつけてしまった。 血が出ることはなかったがおそらく殴られた人のように唇が腫れていたことであろう。失敗である。 まあ大したことがないのでそのまま林道を進んでいく。無事に下山したということで少し気持ちも楽になり来るときは緊張であまり見ることができなかった景色も楽しむことができた。 


道のなかさつない

10時23分に幌尻ゲート到着。 登山を終えて車まで戻ってきたということで安心した。 荷物を車にしまった後、日高山脈山岳センターへ再度立ち寄る。 山岳センターには7月17日に15時45分にこの近くでヒグマが出没したという目撃情報がポスターに貼ってあった。まさしく自分がカムイエクウチカウシ山を登って八ノ沢に降りてきたその日にさらにそこよりも登山口に近いところでヒグマが出ていたようである。 恐ろしいものである。 12時に日高山脈山岳センターを出て中札内村に下りていく。 道の駅中札内で昼食を摂る。 現地のレストランが出しているチキンかつ丼を食べて久しぶりに栄養をつける。道の駅中札内を出てからは帯広指導自動車道終点の虫類インターまで進んでいく。 ここからは国道246号線236号線に入り今度は大樹町を経由して日高山脈の野幌峠を越えて浦河の街へ入って行く。 

浦河で宿泊

 浦河の街に入ったのが17時20分であった。ゲストハウスにチェックインし割り当てられた就寝スペースがヒグマと言う名前だったので面白かった。このゲストハウスは隣の銭湯がセット料金で含まれているのでさっそく荷物を片付けた後風呂に入る。ごく普通の銭湯ではあったがゆっくり湯舟につかれるのが嬉しかった。日没前に歩いて5分ほどのコインランドリーで洗濯をする。 コインランドリーの正面がビジネスホテルになっていたのでそこそこに洗濯に来ている客がいた。 乾燥機を回しながら20時のラストオーダーに間に合うようにラーメン屋に入りスタミナラーメンと餃子さらに飲み物は生ビールという最強の夕食をすませることができた。洗濯物を取り込んだ後コンビニまで歩いて片道十分程かかったが日本酒とイカソーメンを買って宿に戻る。一人で登頂記念の祝勝会をやって夜10時に就寝した。 次はいよいよ新ひだか町から神威岳戸来岳と向かう旅である。

日本200名山最難関といわれたカムイエクウチカウシ山この山に自分は果たして登るんだろうかとずっと自問自答してきた。 本当に名前通りの厳しい山であった。増水した札内川の渡渉、道標がまったくなく踏み跡を頼っていくルートファインディングの技術、そして常にあるヒグマとの遭遇の恐怖、正直山慣れない初級者の人にとってはなかなか厳しい山だろうと思った。 自分がなんとかこの山に登ることができて満足であった。 展望を楽しむことができなかったがたくさんの人がyoutubeの動画やドローンの撮影などでこの山からの素晴らしい景色を公開してくれているので自分も改めてそれを見て楽しむことにしたい
(2023年12月記)

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地図の引用画像は国土地理院発行の数値地図50000(地図画像)と数値地図50mメッシュ(標高)を利用しています。(この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。承認番号  平13総使、第301号)
登山ルートの俯瞰図は、DAN杉本氏の開発したソフトウエア「カシミール3D」にて作成しています