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天塩岳

天塩岳

基本情報
1 山名 天塩岳(てしおだけ)
標高 1,558m (一等三角点)
山域 北見山地
都道府県 北海道
位置 N43.57.51/ E142.53.16
地図 2万5千分の1地図「天塩岳」
20万分の1地勢図「旭川」
7 山岳区分 日本二百名山、北海道百名山
登山記録
山歩No 2010-12039
登山日 2012年10月08 日(日)
歩程 6時間10分
天候 曇りのち晴れ
形態 日帰り
アプローチ 旭川紋別道愛別IC 道道101号
パーティー 1人

アイヌ語で天塩(テシオ)とはテシオペツ(梁・多い・川)を表す。 2012年秋の北海道遠征第二日は200名山のリストのトップに出てくる天塩岳をターゲットとした。 この山は北見山地の代表格の山で利尻山を除く道北の最高峰である。 近くのウエンシリ岳を含めて山の周辺は北海道が管理する道立自然公園になっている。天塩ヒュッテで前泊して周回コースで歩くことができるのも魅力だ。2012年10月6日(土)、前夜空路旭川に入り、21世紀の森キャンプ場にテント泊した後、ニセイカウシュッペ山に登った。 朝登る前と下山してからは雨が降ったが、幸い歩いている最中に雨にあたることがなかったので助かった。 今日は、愛別から協和温泉に入り、汗を流してから、天塩岳の麓の登山基地である天塩岳ヒュッテに宿泊するコースとなる。

協和温泉

 16:35に協和温泉の風呂を出て、天塩ヒュッテをナビに入れようとするが出てこない。 もう一度温泉に戻っておかみさんに聞いてみる。ルートとしては比較的簡単だった。 道道101号をまっすぐ行くと天塩岳への標識があるそうだ。 おかみさんいわく、「昨日協和温泉に泊まりたいと電話してきて、満室だとお断りしたら天塩岳ヒュッテに泊まりますといっていたお客さんが居ましたから、今日はヒュッテでは他にもお泊り客があるはずですよ。」とのこと。 実は、その昨日電話した客というのは自分のことなのだが、折角ご好意で行ってくれていることなのであえて黙っていた。 それからさらにおかみさんは付け加えた。 「クマがよく出る地域ですからお気をつけて」と。 「まさか、ヒュッテにはでないでしょう」と聞き返したところ、「でも登山の途中で遭ったとかヒュッテに行く道を横切ったとかの話はよく聞きますよ」とのお答えだった。 クマに気をつけようと心しながら協和温泉を後にする。 そろそろ夕闇が近づいているが、協和温泉から天塩岳ヒュッテまで1時間はかかるということなので、明るいうちに到着するのは望むらくもない。

道路を横切るタヌキ・キタキツネ・エゾシカ

 道道101号に入って愛別ダムを越えて進む。 距離はそこそこあるが、北海道は道が整備されており、時速70kmほど出るので結構順調に進む。 教えられたとおりに天塩岳の標識のあるところで右折し、天塩川に沿った舗装道路を進む。 この側道に入ったとたん、タヌキが横切った。 あぶない。あわててブレーキを踏んだので接触は避けられた。 さらに5分ほど走ったところで、今度は、エゾシカが前を横切った。 恐ろしい。 エゾシカが車にぶつかったら確実にボディーがへこむだろう。レンタカーを借りるときに免責額をゼロにするために一日千円余分に払うプログラムにしますかと聞かれたが、それはかけなかった。 しかし北海道ではいくら自分が注意して運転していても動物が相手の事故が起きることを想定しておかなければいけないのかもしれない。 そんなことを考えているうちに道はポンテシオダムに到着した。ルートはここからは未舗装の林道となる。(写真は帰路で撮影したもの)

真っ暗な林道-ついに野獣と遭遇

 9kmの林道は途中、水溜りになっているところもあり運転に気をつかった。 時速10kmほどでのろのろと進む。 3kmほど進んだところでまた道の脇からエゾシカが林道を横切った。 エゾシカは体躯が大きいので近距離で見ると恐ろしい。 車にぶつからないでくれよと願いながら、曲がりくねった道を進むとヘッドライトが先方の林道の上にいる2つの黒い個体を映し出した。 なんだ、またエゾシカかな?などと思いつつ20mほど進んで気がついた。 エゾシカじゃない。 クマだ。本物のヒグマだ。 つがいと思われる二頭のヒグマは車のヘッドライトに照らされてじっとこちらを見ている。両眼はヘッドライトに反射してぎらぎらと輝いている。 道の真上にメスと思われるクマが、そのさらに3mほど先に一回り大きいオスと思われるものがいて2頭ともこちらをにらんでいる。 と、突然、先にいるオスが すっくと2本足で立ち上がった。 で、でかい。 人間の身長と同じくらいある。 東北でツキノワグマをみたがおそらくそれより2回りくらい大きそうだ。 メスのほうは、きびすを返すようにして林道の脇にある藪の中に入っていった。 立ち上がったオスは再び前足をおろして4つ足になるとこちらに向かって歩いてきた。 いかん! こないでくれ。 車の中にいるので直接襲われることないだろうがこちらに歩く大きなクマの姿に恐怖で頭が真っ白になってしまった。ヘッドライトに照らされたまま 数歩林道の上をこちらに向かって歩いたオスのクマは、メスが逃げていった藪と同じところから横へ入っていった。時間はわずか3-4秒のことだがとても長い時間に感じられた。 クマが林道から姿を消しても、まだ、脇の藪の中にいるような気がして1分ほどはそこから動きだせなかった。 意を決してゆっくり車を出すと、脇の藪にはもうクマの影も形もなかった。ほっと胸をなでおろして再び暗い林道を走る。  


(挿絵は渡島総振興局HPより引用)

天塩岳ヒュッテ-鍋を囲んで宴会

 あと1km、道の脇の木に新道登山口の表示があった。急に回りが広くなり正面に建物が見えた。 17:46天塩岳ヒュッテ到着。 周りをよく見ると、車が4台停まっていたので自分もその横に駐車。 宿泊に必要な荷物と食料だけを持って小屋に入る。 小屋では4グループ8名の人たちが薪ストーブの前に置いた大きなテーブルを囲んで鍋の宴会をしていた。 鍋幹事の男性がご一緒にどうぞと仲間に入れてくれる。 自分も日本酒とバーボン、おでんを拠出して山談義の宴会に参加させていただいた。まだ外ではかなり強い雨が降っている。 天塩ヒュッテは掃除の行き届いたきれいな小屋で薪ストーブが体を温めてくれる。収容人数40名。 トイレも水場も近いし、小屋の中に水道も引いてきている。もっとも煮沸してから飲むように書いてあるが。 ラジオはかろうじて入るので聞いてみると明日は天気は悪くないようだ。 21時に就寝。 札幌から来ている一番年配の男性と若いカップルの2グループが2階に就寝。自分の到着の少し前に着いた単独行の男性と鍋を仕切ってくれた地元山岳会の3名の男女と自分が宴会をやった1Fでエアマットを敷いて寝袋で寝た。  

天塩岳道立自然公園看板-出発

 10月7日(日)朝5:15起床。 外は明るくなっているがまだ少し小雨が降っている。 年配の方は、どうしても今日夕方までに札幌に帰らねばならないということで早朝出発を計画してたが朝起きたら雨が降っているというので中止して帰ることにしたらしい。 あとのメンバーは皆ほぼ同じスケジュール。 5:15起床の7:00出発という計画だ。湯を沸かしてインスタントのきつねうどんを食べて朝食とする。 炊事場の水を汲んでポリタンクをいっぱいにする。 リュックにEPIも入れていきたかったが、要量オーバーとなってしまったのであきらめて昼食はパンだけですませる計画にする。7:04歩き出し。雨は既にやんでいる。天塩岳道立自然公園の札の前で写真を撮る。 10分ほど前に単独行の方が先に出発していった。 自分のすぐ後ろをカップルの方たちが歩いていたが健脚のご様子なので先に言っていただいた。

稜線を臨む紅葉

 最初道は沢沿いの緩やかな林道。7:09に前天塩からの沢を橋を渡って越えるが橋の上にクマのものと思われる糞がついていた。7:16天塩川本流を渡ってここからいよいよ登りの開始。 7:36に前天塩に行くコースと新道との分岐を通過。紅葉がきれいな登山道を樹林の中を登っていく。 途中、白いきれいなきのこを発見。7:56に旧道と前天塩岳コースとの分岐に到着。 少し休憩する。 山岳会の3人組もあとからやってきた。 聞くと、出発直前に車で天塩ヒュッテに到着した方がいるから、まだ最後尾ではないですよとのこと。 自分は相変わらず歩くのが遅いので、山では同じような時間に出発してもだいたい最後尾になってしまう。心臓破りのジグザグ坂を上りきって8:53に3人組が休憩しているところに到着。 このあたりで標高は1160mくらいだ。 結構急なのぼりが続く。右手にはこれから登る前天塩岳と天塩岳をつなぐ稜線が見えた。 あのあたりの標高が1400mくらい。 まだ1時間以上は登りが続きそうだ。 樹林の間からナナカマドがきれいに紅葉しているのが見える。8:57出発。 

前天塩岳山頂を越えて

 道はまだ厳しい登りであるが20分のど歩いて標高1250mのあたりで完全に樹林が終了して、低木の中のガレ道になった。このあたりが森林限界だ。前に3人組の方が歩くのにペースをあわせてもらい快調に登っていく。 足元の石の中には石英が固着しているきれいなものがある。ガレ場を登りきって9:56に前天塩岳山頂に到着。 3人組の方たちも、展望がないのでここで休憩するつもりもなくそのまま通過していく。ここからの稜線は南に向かって伸びていく。 ハイマツの中で草紅葉が見事である。10:09にトラバースルートとの合流。 前天塩の山頂に立つのが億劫であればこのトラバース道を来る手もあるが、紅葉を楽しみたければやはり苦労してでも山頂を経由するほうがよいであろう。 ルートはラクダ岩の上部にある鞍部の標高1350m地点まで一気に下りてしまった。ガスが晴れそうで晴れない。 麓のほうには太陽の光が差しているのがわかるが、残念ながら天塩岳の山頂は見えない。笹の中を進んで登りとなる。なかなか手ごわい登りだ。

滝上町ルート合流点

 腹が減っては戦にならんと思い、10:25にリュックをおろしておにぎりをひとつかじることにした。 3人組はそのまま進んでいったのでそこからは一人で登ることになる。ハイマツ帯を乗り越えると岩が主体の登り道になりガスの中ながら少し前を3人組が歩いているのが見える。 10:50に稜線が左に曲がる平たいところへ来た。 道標があって滝上町からの登りのルートが表示されている。 今回、天塩岳に登る際に滝上町からのルートも考えたがほとんど登った人の記録がWEB上にはなかった。

天塩岳山頂

 10:59天塩岳の山頂に到着。 標高1,557.6m。気温6度。天気はガスで展望なし。相当に風が強く、ガスがどんどん流されていある。 山頂には立派な石でできた山頂標識があった。一等三角点もある。前を歩いていた3人組はここでも、立ち止まらなかったのか、山頂には人気がまったく無かった。天気予報を信じるならば、今日は朝のうち霧がでるものの次第に雲が晴れて行楽日和になるということだったので、そろそろ天候回復を期待して、しばらく山頂にいて待つことにする。南側のハイマツの切れた露出地まで下りて、リュックからパンを取り出して食べる。10分ほどすると山頂に朝追い越していったカップルが現れた。 新道を下りようとしたが、どうも踏み跡をたどっていくと旧道に入っていくようで引き返してきたということ。 しばらく一緒に待っていたが、ガスが晴れそうで晴れないので、お互いに写真の撮りあいをして、山頂を後にすることにした。 

天塩岳避難小屋

 新道は、よく刈り払いのされたクマザサの中を下っていく気持ちのいいルートガスもこの部分は晴れていてまあまあ見晴らしがある。 遭難慰霊碑を過ぎたところで3人の登山者とすれちがった。11:45に避難小屋に到着。 中に入ってみると、前を歩いていた3人組が食事の準備をしていた。 その他に新道を上がってきたであろう2人組もいた。 避難小屋は天塩岳ヒュッテと比べると小さかったが、床はきれいで泊まったら快適そうなところだった。 3人組に「今夜はここで宴会ですか?」などと冗談を言って、おつまみの貝柱を分けてもらった。 外にあったトイレも3人が使用できるもの、中も広かった上にきれいに使われているようであった。12時出発。 ここからほとんど平らな道を進む。 丸山まで標高差40mほどのゆるやかな登り。登りでゆったりとしているとクマよけの鈴がならない。 ハイマツの影からクマが出たりしないだろうかとびくびくしながら登っていたら後ろから先ほど山頂で写真を撮り合ったカップルが来るのが見えて安心した。

丸山で天塩岳をバックに写真撮影

丸山の山頂直下は石がごろごろ並ぶガレ場になっていて休憩にちょうどいい。 リュックをおろすと、どこからからキュンという鳴き声が聞こえた。 見ると岩の上をエゾナキウサギが歩いている。氷河期から生きているこの生物はなかなかお目にかかる機会がないのでしばらく観察をする。 すると、避難小屋から天塩岳にかけてかかっていたガスが次第に風に流されて晴れてくるのが見えた。 後ろにいたカップルもガスが晴れるのを待って写真を撮ろうと機会をうかがっている。 またお互いにシャッターを押しあって天塩岳の勇姿をバックにした写真を撮ることに成功した。結局ここで17分も休憩して12:28出発。 カップルと一緒に歩いていくことにした。


前天塩岳遠望

 丸山を下ってしまうともう天塩岳の姿は見えなくなるので、しっかりと眼に焼き付けて下山開始。 右手には前天塩岳の姿がジグザグの登山道も合わせてよく見えている。 ピラミダルでなかなか見事な山容だ。 下山するコースも先がよく見えて気持ちがよい。 後ろから単独行の人が一人下山してきているのが見えた。13:04やはり標高が1160mくらいのところで森林限界がありそこから先は樹林帯の中に入っていく。 イタヤカエデの黄色い葉が鮮やかな道を降りてゆき、13:16、新道登山口へ行くルートと天塩岳ヒュッテに下りるルートとの分岐に到着した。 少し休憩してペットボトルのお茶を飲む。 朝600mlに満タンにしていたペットボトルはここですべて尽きてしまった。 もっともポリタンクに水がまだ2L近く入っているので不安はないのだが。 13:23出発。 ここからは一気に標高を下げていった。 道は結構登山者が多いのかよく整備されている。13:39に沢を渡り、13:47に新道・旧道の分岐まで到着した。ここからは林道のような気分で歩ける。 ずいぶんと日が短くなってきたという話しをしながらカップルと一緒に天塩岳ヒュッテへと歩を進める。 

天塩岳ヒュッテ到着

 14:10、天塩岳ヒュッテ到着。ヒュッテをバックに無事下山の記念撮影。 改めて明るいところでヒュッテを観察する。 2階にも上がってみた。 たたみまで敷かれたつくづく快適な山小屋である。 トイレを済ませて、EPIで湯を沸かしてほうじ茶を飲む。 ちょうど3人組も下山してきたので、お疲れ様と声をかけてお茶のサービスをした。 暖かいお茶に喜んでいただいた。 きがえを済ませて、14:50に車で出発。 明るい時間に走る林道はやはり気分的に楽であった。 今度は林道9kmを走る間に一度も動物に会わなかった。 最後に道道101号に出る手前でキタキツネが道路を横切った。ちょうど前日タヌキが横切ったのと同じようなところだった。 この二日間で、ずいぶんと北海道の動物に出会うことができた。 (エゾリス、エゾシカ、タヌキ、ヒグマ、エゾナキウサギ、キタキツネ)。

天塩岳の展望の素晴らしさはたくさんの人がWEBに書いているのを拝見した。 今回、天候の回復が少し遅れてタイミングがずれて山頂からの展望を眼にすることはできなかったが、下山中に丸山から素晴らしい天塩岳の姿を見ることができたので満足であった。 それにしてもヒグマとの遭遇は今だからこそいい土産話であるが目撃した瞬間は心臓が停まるかの思いだった。 やはり北海道の山はふところが深い。 幌尻にテントを担いで登ったときと同様、この天塩岳も忘れられない北海道の山となった。
(2012年10月 記)

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地図の引用画像は国土地理院発行の数値地図50000(地図画像)と数値地図50mメッシュ(標高)を利用しています。(この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。承認番号  平13総使、第301号)
登山ルートの俯瞰図は、DAN杉本氏の開発したソフトウエア「カシミール3D」にて作成しています